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固定残業代とは?導入するメリット・デメリット、
運用時の注意点を解説!

固定残業代とは?


固定残業代(制度)とは、事前に定めた一定額を残業代(時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金)として給与に上乗せして、従業員に支払うことをいいます。
固定残業代は、法律上の制度ではなく、会社が独自に設けて運用する制度です。
固定残業代という呼び方以外に、「みなし残業代」「定額残業代」等と呼ばれる事があります。

通常、残業代は、賃金計算期間毎に発生した残業時間に対して、算出した額を給与に上乗せして支給します。一方で固定残業代は、事前に定めた一定額の残業代を給与に上乗せし、実際の残業時間数に関係なく、固定で残業代を支給します。
仮に残業が無い場合でも、会社は予め定めた固定残業代を全額支払う必要があります。

固定残業代の種類


固定残業代は、主に「手当型」と「組込型」に分かれます。

「手当型」は、基本給とは別の手当として、残業代を支給するものです。
 (例)基本給32万円、固定残業手当5万円を支給する。
「組込型」は、基本給の中に固定残業代を組み込んで支給するものです。
 (例)基本給37万円の中に、時間外手当5万円を含んで支給する。

固定残業代が有効と認められるためには、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金(残業代)に当たる部分」を明確に区分することがひとつの重要なポイントになります。
労務トラブルを防止するためには、「組込型」ではなく、従業員にとって分かりやすい「手当型」で運用することをお勧めします。

固定残業代の主な注意点


固定残業代を導入・運用することは、法律上問題ありません。
ただし、実際に裁判等に発展する事例をみると、次のような理由で、残業代が適切に支払われていないと判断されることがありますので、注意が必要です。

裁判で固定残業代が問題になった事例
 
➊ 実際の残業代が固定残業代を上回った場合に、その超えた分を支給していない
例えば、30時間分の固定残業代を支給している場合、実際には35時間残業したときは、超過した5時間分について別途支給する必要があります。
この場合、残業代を全く支払っていなかったと判断され、会社は多額の未払残業代の支払いが必要になる等のリスクがあります。

❷ 就業規則や労働条件通知書等に明記されていない
例えば、労働条件通知書に「基本給25万円(固定残業代を含む。)」と記載されていたとします。
この記載だけでは、固定残業代が何円で、何時間分の残業時間に該当するのか、分かりません。
このような固定残業代については、基本給と判別することができず、法的に認められない可能性が高いといえます。

❸ 長時間労働を前提とするような固定残業時間が設定されている
例えば80時間分の固定残業代は、従業員の健康を損なう危険があり、公序良俗に違反するものとして無効になる等、法的に認められない可能性があります。

固定残業代の誤った運用をすることにより、労務トラブルに発展し、裁判に至っている事例も数多くあります。
固定残業代制を導入する際は、十分に注意する必要があります。

固定残業代を導入する会社のメリット


固定残業代を導入することは、従業員のモチベーションを維持するほか、給与担当者の事務負担軽減にも繋がる可能性があります。

➊ 従業員の公平さを保てる
通常の残業代制度では、同じ業務内容であっても、業務の処理スピードの違い等により残業時間に差が出ることがあります。
その結果、効率的に早く業務を終えた従業員よりも、時間が掛かった従業員の方が高い給与を受け取るケースがある、不公平感が生まれる恐れがあります。
 
固定残業代は、事前に定めた残業時間分の手当を給与に含めるため、同じ業務を担当する従業員に対して均等な給与の支給が可能です。
これにより、給与面での不均衡を抑え、生産性が高い従業員のモチベーションの低下を防ぐことにも繋がります。
❷ 給与計算が楽になる/人件費の見通しが立てやすくなる
固定残業代を導入すると、実際の残業時間が固定残業時間以下である従業員に対しては、固定残業代を満額支給することになります。
実際の残業時間が固定残業時間以下であることさえ把握できていれば、細かい残業代の計算を行う必要がありません。
 
また、実際の残業時間が固定残業時間内に収まる場合には、人件費の見通しが立てやすくなります。
これにより、会社としては経営計画や資金繰りの精度を高められることが期待できます。

固定残業代を導入する会社のデメリット

➊ 人件費が増える可能性がある
固定残業代を導入すると、実際に残業が発生しなくても、事前に定めた固定残業手当を支払う必要があります。
例えば、実際の残業が月10時間でも、月30時間分の固定残業代を支給していれば、人件費が想定以上に膨らんでしまいます。
 
❷ 従業員の理解を得にくいことがある
固定残業代を導入する際、現行の給与総額を維持するために基本給を引き下げるケースがあります。
  (例)固定残業代 導入前 基本給30万円
     固定残業代 導入後 基本給27万円、固定残業手当3万円
しかし、従業員に不利益となる労働条件の変更を、本人の同意無く一方的におこなうことは、原則禁止されています(労働契約法第9条)。
 
この場合、制度自体が無効と判断されるリスクがあり、未払い賃金を請求される可能性もあります。
固定残業代制の導入の際は、目的や内容を丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが重要です。

まとめ


固定残業代はメリットもありますが、誤った運用をすることにより、大きなトラブルに発展し、裁判になる事例も多数あります。固定残業代については、法律による定めがないため、過去の裁判例などを把握し、専門家の意見を踏まえ、慎重に導入することをお勧めします。